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 雨上がりの夕空に。

 さて、昨日の続き。手許に網野善彦氏・横井清氏による『都市と職能民の活動』(日本の中世6)という本がある。
 そのなか、横井清氏によって「食と生死の諸相」が書かれているが、これが面白いので、ノートをつくるつもりで引用する。
 まず基礎的なこと。包丁とは、
   「諸先学による料理・調理の歴史をひもとくと、魚鳥料理の手法が進んだのは平安時代といわれ、これを「包丁」と称し、
   宮廷の大饗の席で魚鳥の包丁が披露されることしばしばであった。」
 包丁とは大きく料理・調理の技法一般をさすようで、それは「芸能」として括られていたようだ。

   「できあがった料理を出すのだけがもてなし(饗応・供応)だったのではなくて、狙上の品を原型のまま人びとの観覧に
   供し、続いて、それの調理の経過を一部始終、披露した。その技・方式じたいが一種の儀礼的行為として尊重されると
   ともに、それは後に「男芸能の随一」とまでいわれた。」
 ふむ、ふむ。TVで料理人・シェフと称する人たちがもてはやされるのは、今に始まったわけではないのだね。多分、イケメ
 ンだったり、指がきれいな人の方がもてはやされたのかもしれない。

   「公家社会での庖丁では、伝説的な名人、藤原山蔭を流祖とする四条流を生んでいたが、庖丁それじたいほ鎌倉の武
   家にも広まり、やがて室町時代になると平安以来の公家文化の枠組み・型式を強く意識しながらも、武家なりの故実・儀
   礼が調えられるようになって、次第に武家風の庖丁が整備されてゆく。そういう風潮のなかで、室町中・末期以降、大草
   流・進士流、さらには生間流・池水流が生まれ、各流派での技法に関する聞き書きや料理書が、まな板に向かうさいの膝
   のつき方、引き方、箸・刀(真魚箸と庖丁)の扱い方などなど、きわめてもったいぶった煩雑な作法もふくめて、詳細に書か
   れるようになった。そして公家貴族がそうであったように、都に常住する新興の武家たちのなかにも庖丁の技芸への関心
   は広まって、それが武家の教養ともみなされるまでにいたるのである。」

 ここまでが基礎編。ここからが佳境だ。
 よく知られた話しに、小田信長と料理人坪内某との逸話がある。逸話の要点をあげる。

 永禄11年(1568年)9月の織田信長の入京によって、それまで京都を抑えていた三好家は滅びたが、その際に三好家に仕
 えてきていた優秀な料理人の坪内某は捕らえられた。信長の臣、市原は坪内を許して厨房を担当させるよう進言したので、信
 長は料理を出させたところ口には合わず、「水臭くて食えない。成敗してしまえ」と怒った。
 坪内は「もう一度やらせてほしい。それでもお気に入らねば切腹する」とまで言ったので信長は許した。その翌日、坪内の出した
 料理の味はとくによろしくて、喜んだ信長は彼に禄を与えた。坪内は信長の計らいを謝したが、(そのあとで、人に)「昨日出した
 料理の味付けは、永らく足利将軍家に仕えて国政を執行してきた三好家の好みで、第一等の味加減だった。だが今日の料理は
 下品な田舎風の第三等のそれだから信長のお気に入ったのだ」と語ったので、それを聞いた人は「信長を辱めた言葉だ」と口々
 に評した。

 これに関して、横井は次のように書く。
   「察するに、「鶴鯉の庖丁は云ふにも及ばず、七五三の饗膳の儀式」に通暁していたという坪内が一度目に調えた料理は、都
   風の、いわば「伝統」的な味加減であり、信長がそれを「水臭い」と評したのは薄味だったからだ。坪内は俊敏に事の本質をわ
   きまえて、薄味から濃い味加減に転換することによって信長の意にかない、命をつなぎえたのである。
   坪内と信長との問にある料理の価値観は、あまりにも大きな亀裂をもっていた。
   坪内にすれば我が手になる料理の味は天下一品、最高級のものであり、他の追従を許さないはずだ。それなのに、(田舎者
   の)信長にはわからない。         
   反対に信長のほうでは、料理は美味く食えるものでなくてはならぬ。やれ庖丁の、やれ七五三の饗膳の、やれ彩りの取り合わ
   せがどうのこうのと、滅法ありがたがってみたところで、いざ自分の口に入れ、自分の舌で味わってみて美味くなければ意味が
   なく、あくまでもおのれの舌・味覚こそが唯一の物差しなのである。
   坪内・信長以降の時代にも、むろんのこと格式も気位も高い料理の「伝統」は、手を替え品を替えながら庖丁の名人たちによっ
   て継承されてはゆくが、信長が象徴的に、端的に示していたような、相手がそれを美味く食えるか否かという課題は、終始、そ
   の念頭から外せなかった。あえていえば坪内某は、中世とりわけその後期の都における料理技芸の道を極め、頂上から、裾野
   へと広がる「田舎」を悠然と見渡す心意気を胸底に据えながらも、以後は「野鄙なる田舎風」の、信長殿の好みを絶対に最優
   先しながら、厨房で腕を振るわざるをえなかったのだろう。彼は、そういう都=中央の料理道の分かれ道、転換点に立った、中
   世最末期の料理人の一人であった。」

 わたしは、ここからなにを読みとればよいのか。
 料理人がつくる「伝統(正統)料理」と、わたしが日々食べている料理の間の径庭は、今も遠く隔たったままだ。

 一方、平安最末期の「養和の飢饉」のときなど、市中には累々たる餓死者の山ができ、夜盗、群盗が跳梁跋扈していた、とある。
 伝統的料理-2
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