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 北九州・小倉は20度を越す温度で、コートもいらないくらいの温かさだ。 
 立松和平、死す。おれはまったくの無縁であったが、おれの周囲には、立松和平と親しい人
 が多い。62歳だったという。
かり
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 宿の窓からは、妙高連峰がみえた。おれは、確かにここにいた。

 遠い山なみに連なる、深い二月の青空をみていたら次の句を思い起こした。 


      あをぞらの奥へ曳きゆく橇ひとつ
                                  
中岡毅雄

 この句を、長谷川櫂は次のように解いている。

      誰でも一度は人生を終わらなくてはならない。
     たいていは思いも寄らない結末が用意されてい
     るが、たとえば、この句のような最期ならどうだ
     ろう。力を尽くして空のかなたへ曳いてゆく橇。
     それも曇天ではなく、冬晴れの空のかなたへ。

 北九州行きの飛行機、一つとなり(隣の席は空席だった)は、服装やバッグなど
 の持ち物全てブランド物で装甲した、いまどき珍しい40代女だった。
 驚いたのは飛んでいる間に携帯電話を使用しようとして注意され、それでも乗務
 員の目を避けてメールをしていた。
 どうしたらこのような、堂々たる人生を歩むことができるのか。

 電車の中で、付箋をいっぱい貼った『はじめての現象学』(竹田青嗣)を読んでい
 る人(推定75歳くらい・男)をみた。おれは75歳まで意欲が持続するだろうか。

 空の青み、二月…
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 野沢温泉・住吉屋の前の、このような風光。

 未知の方からメールをいただいた。未知といっても、たぶん、名刺を交換して、
 おれが覚えていないだけだと思うのだが。

 あなたが書かれている、感傷的で長大な日記はやがて「物語」として立ち上
 がってくるでしょう。わたしは読み続けています。

 これはなんでしょう。ま、お世辞でしょうし、さすがに、こんな「ホメ殺し」の言葉
 に舞い上がったりする年齢ではない。
 でも、うれしい。
 

 村上春樹の『1Q84 Book3』は、2010年4月16日発売予定です、というメー
 ルがきた。このようなメールは、どういうリストに基づいて送られているのだろう
 か。
 おれは、村上春樹のフアンですなどと表白したこともいないし。 

  忘れてしまうので、記しておこうと思う。昨日、横浜での会議が終わって地下鉄
 に乗り、みなとみらい駅に向かった。みなとみらい駅のホームに電車はさしかか
 り、ホームにいる人が判別できるような速度になったとき、おれは、ホームに室
 伏鴻がいるのをみた。
 見間違いかと思い、降りたホームから、出ていく電車のなかを探すとやはり室伏
 鴻が乗っていた。
 すぐに、携帯に連絡をとったが、つながらなかった。 
 
 立春も過ぎて、久しぶりに、今日は豆腐を買いに出ただけだった。
 午前中、陽光があふれるほどに射し込んで、縁側はサンルームのようだった。
 陽の光のなかで、猫のように丸くなって寝ていると、なんだか切なくなった。
 光があまりにも清らかで、すがりつきたくなるような明るさであった。
 おれは、確かにここにいた-2
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 ビルジングの壁ガラスに雲が写って、向こうの空が透けてみえるような錯覚を
 した@横浜。

 久しぶりに役所系の固い(つまらない)会議をやりすごして、近藤ちはると合流
 して「束芋展」をみにいった。一度みているので、ちょっと気になったところの確
 認というような意味で10分ほど。
 常設展の米田知子の写真がイイ。もちろん、石内都の「横須賀ストーリー」は
 いい。
 野毛まで歩いてF.Fへ。車橋で森田・ナスターシャ夫妻と合流、開店早々の
 「車橋モツ屋」へ。
 乾杯をした早々、オヤジに叱られる。声がデカイというのだ。そりゃ酒が入ると
 おのずから声もでかくなろうというもの。神楽坂の伊勢藤ならわかりますよ。お
 れだって神妙に飲みますよ、これでも空気を読むタイプなんだから。
 寿のすぐそばのモツ焼き屋で、声をひそめて行儀よく飲めというのか。おれは
 二度とあそこの敷居はまたがないことを、ここに断言す。
 大きな声を出してゆっくり飲みたいので日ノ出町の「栄屋」へ。なんという名店。

 2月3日、鈴木常吉さんにコメントを書き込んでいただいた。

    不健全な行いを繰り返すことが、私には唯一の健全になる道だと何処か
    で思ってるんですだから、ほんに、馬鹿丸出しです。

 同じく、馬鹿丸出しのおれは、実は「歌詞」を書き終えているのだが、鈴木常吉
 さんに、どうやって渡せばいいのか悩んでいる。
 ライブにいって、手渡す機会をつくろうと考えてはいるのだが。

 2月1日に漬けこんだキムチを味みする。うんまい。2〜3週間後が楽しみだ。
 もう、二度と行くもんか
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 横須賀・銀次。「銀次」という店名、このトッポさ。

 信州から戻り、夜は横須賀・銀次へ。満員であったがねばっていると、テーブルの
 客が立ってくれる。
  銀次でカキ酢などを食いながら、温燗を飲んでいると、今日の午後までいた野沢
 温泉のことが、もう遠いことのように思えてくるのだった。
 とはいえ、昔風の飲み屋である銀次の騒がしいなかにいても、写真のことなども
 考えていて、場所は移動しても、思いは野沢温泉から長野へ、長野から東京へと
 引きずり続けているのだった。

 例えば、優れた写真と、どうでもいい写真という分け方があるとする。あるいは、広
 く販売可能な写真と、家族、知人、恋人など周囲の人に見せるだけで、まぁ、買う
 人はいない写真というふうに二分することができるとする。
 しかし、どう考えてみても売れる写真はパブリックな写真で、自分の身の回りにだ
 けでみられる写真は私的な写真というふうに二分することはできないと思う。
 大きなカメラ(by10とか)を維持しながら撮影ができる条件にある人(写真家)は小
 説(大説)家であり、それ以外の人は、いま日本では落ち目の「私小説」になぞらえ
 て、私写真家とでもいうのだろうか。
 おれ自身のことを考えてみると、どう考えてみても「売れる写真」だとは思えないし、
 極めて私的な欲求に基づいて撮っている(無駄)写真であるから、おれなどは、(無
 駄)私写真家とでもいうのだろうか。
 売れる「写真家」と「(無駄)私写真家」との径庭は、いかばかりのものであろうか、
 と温泉に浸かりながらいろいろ思ったことなどを、思い起こすのだ。
 横須賀・銀次にて
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 凍てる花実(すべては花)。

 昨日、午後、クワハウスにいったら、顔見知りの飲み屋のおにいちゃんに
 あってしまい、ついついお店に拉致されて、宿の食事をとれなかっただけ
 ではなく、旅先でひどく酩酊するというありさまになった。
 10時頃、宿に帰ってテレビをつけると、なんと、朝青龍が引退という騒ぎ
 になっていた。
 まぁ、いろいろあるでしょうが、尋常ではない巨大な体躯、容貌魁偉、そ
 の破壊性、大食い等に、われわれは神性や聖性を見出してきたのであっ
 て、家のローンのことばかりを考えているようなやつが、相撲取では情け
 なくはないか。

 蕎麦屋で古い朝日新聞(2日)をめくっていたら、スポーツ評論家の玉木
 正之が、浅川マキのことを書いていた。
 いろんな人が彼女の追悼文を書いているが、これが一番かも。
 
    一人の歌手が亡くなった。名前は浅川マキ。彼女のことを話そうとす
    ると、おそらく誰もが、“自分史”の一部を話すことになる。

 まる3日いた野沢温泉をでて、いま、長野からの新幹線のなかで書いてい
 るが、朝日新聞に朝青龍の引退に関する、サッカーの岡田監督のコメント
 が掲載されている。

    みんな、「聖人君子」じゃなきゃいけないのかな……。
 野沢温泉にて
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 氷柱(つらら)。つららとは儚いものだ。

 宿に入ると、なにもすることがないことは、昨日も書いた。
 仕方がないので本を読むが、すぐに飽きて、テレビをみてしまう。おれのうちにはテレビが
 ないものだから、最初は珍しく面白くて仕方がない。
 長野県庁にノラ犬が入り込み、大捕り物があったとか、白馬村から6人の冬季オリンピッ
 ク選手が出場するとか、冷え性と低体温は違うとか。
 一人で大笑いしたのは、何度いっても酒癖の悪さが治らない朝青龍に、誰が言い聞かせ
 ると改心するかというアンケート(?)に、貴乃花部屋に入れなおすというのはわかるとして
 も、瀬戸内寂聴とか王貞治とかジンギス・ハンとかが挙がったことだ。まだまだ日本は大
 丈夫である。
 しかし、相撲は国技だなどと祭り上げられる、容貌魁偉、巨躯、大食の男たちもつらいもの 
 があるだろう。この国のどこに品格などあるものか。
 おれは朝青龍に一定のシンパシーを持ち続けている。何度反省を繰り返しても、おれは酒
 を絶つことができないだろう。
 おれは、朝青龍は酒を飲んでいるのではないのだと思う。何を飲んでいるのかって?それ
 はいうまでもない、哀しみを飲みほしているのだ。
 そのテレビも、一時間もみると 飽きてしまい、雪の中を、忘れていた郵便物を投函するつ
 いでに雑誌『ブルータス』を買いに町に出た。
 おれは野沢温泉村のどこになにがあるかはだいたいわかっている。野沢は一時間も歩くと
 村を一周できる、落ち着いた温泉町だ。おれのとっての「美しき村」なのだ。
 ブルータスは、「ほぼ日」との共同編集で「吉本隆明」が特集されていることを新聞でみた。
 しかし、ブルータスのような、大衆消費社会に迎合した低俗な雑誌は置いていなかった、
 エロ本はあったけれど。
 雪の降る町を…
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 妙高連峰夕景。 

 宿に入ると何もすることがない。日に三度お湯に入り、朝夕、時間になると食事の連絡が
 来る。その食事がモノスゴク美味い。

 おれは残念ながらグルメでもグルマンでもないが、食卓には毎夕の食事の内容一覧が記
 された紙が置かれているので、記念にそのまま書き写す。

  「節分」

   節分の何げなき雪ふりにけり
                       久保田万太郎

   前菜 打豆・お多福百合根・鰯梅煮・きつね寿司・金棒はじかみ・赤鬼人参
   焼物 岩魚塩焼
   温物 蕎麦すき
   止椀 なめこ汁
   御飯 野沢菜御飯
   香の物 野沢菜漬け
   郷土料理取回し鉢
   デザート マンゴー
   恵比寿瓶ビール、日本酒お銚子二本。               以上

 これでも、夕食の三分の一をはしょったコースなのだ。フルコースなどとても食べられるも
 のではない。
 ここだけの話にしてもらいたいが、野沢に着いた昼過ぎに、昼食はすましていたが送って
 くれた若い人に、ささやかな謝意の意味で蕎麦でも食べてもらおうと、住吉屋のそばの
 「良味」というわかりやすい店名の蕎麦屋にいった。
 おれは、馬刺しと野沢菜漬けを肴に、ビール一本と癇酒二本、生酒(小瓶)一本を飲んだ。  
 ずいぶん飲んだと思われようが、おれは二人分頼んだのである。気づくと、どうしてか彼
 は酒を固辞するので、仕方なくおれが飲んだ。彼は「なめこ蕎麦」を食べ、今までで一番
 おいしかった、とお世辞をいった。
 蕎麦屋を出たのが2時すぎであり、夕食は7時である。これ以上飲めるわけがない、食べ
 られるわけがない。つまり、住吉屋へいくということはデブになりにいくと同義なのだ。
 それでも若い頃は、夕食後、温泉街に飲みにでた。今はとてもそんなことをする体力も気
 力もなくなってしまって、これを書いているのである。


 

 雪降りしきる 信州へー3
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 遠くに妙高連峰が連なる。

 企業研修も参加者全員で昼飯をたべ終了。おれはこの企業と何の関係もないが、
 社員数120数名の組織が、社是の第一番に「教育」を掲げていることに共感する。
 今はあらゆる組織が教育に資源を注ぎ込むときだ、というのが、おれの言い分で
 ある(おれがいっても仕方がないが)。
 スタッフの一人に野沢温泉の「村のホテル住吉屋」まで送っていただく。研修施設
 から公共交通(バス→電車→バス)で野沢まで辿りつくには3時間くらいかかると
 いう。それが、車だと1時間少し。
 「村のホテル住吉屋」に来るのは7〜8年ぶりだろう。それでも、おれが通った温泉
 宿としては、ここが一番多い。この宿には思い出も思い入れも沢山ある。

 ご存知のとおり、昔から「住吉屋」に限らず野沢温泉は、お湯がいい、という定評が
 ある。ゆで卵(硫黄)の臭いがかすかにするが、無色透明で、そして、じっくり温まる。
 温泉のお湯というのは、雨や雪が30数年かけて地中深くに浸透し、マグマに温め
 られて再度地上に戻ってきたものだ。
 源泉から流れ出すお湯は、おれが、なにも知らないというだけで怖いものがなかっ
 た30歳頃にそぼ降った雨が、60歳になったおれに還流してきたのだ、と思うとしみ
 じみとした想いになる。
 あふれ出すお湯が、そんなふうに人生の徴(シーニュ)だと思えるならば、宿命が描
 く物語の信憑は、すでに十分すぎるであろう。

 外は雪、雪、雪である。

 信州へ−2
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 小倉のMMさん、こういう風景のところにきています。

 長野というか、長野と新潟の境に来ている。
 昨年暮れにつきあった、ある企業の研修の最後のプログラムだ。こういうことを書くと不謹
 慎だが、おれはおれ自身が「企業研修」とかに向いていないと思う(つくづく)。
 本来ならば、昨夜入って交流会とやらにも出る予定だったが、どうしてもやっておかなけれ 
 ばならない雑事が終わらずに(キムチを漬けたせいではない)、今朝、5時過ぎに家を出て、
 10時からの研修になんとか滑り込む。

 途中、北九州で読み残した島田荘司『網走発遥かなり』を読む。一度読んだときには気に
 ならなかった(見逃した)箇所がある。
 関東大震災の後、帝都復興という大義名分に則って、不燃性の強いRC(鉄筋コンクリート)
 構造のアパートメントを、東京に数多く造った組織があった。それが同潤会だという。
 『網走発遥かなり』によると、
    このRC造りの近代的構築物は、もう一つの役割を担わされていた。それは、  
   いってみれば都市の恥部の浄化とでもいった意味合いである。
    すなわち、根岸三ノ輪アパート、谷中鶯谷アパート、本所柳島アパート、向島
   中之郷アパート、西巣鴨アパート、猿江アパート、三河島アパート、江戸川アパ
   ート、これら同潤会アパートの建設場所は、すべていわゆるスラム地区である。

 また、江戸川乱歩の『陰獣』(昭和3年)の中で、あえて品の悪い場所を選んで住み着くこ
 とを趣味とする登場人物、大江春泥の転々とする場所が、大正14年から昭和7年頃にか
 けて同潤会の建設したアパートの場所とぴったり符合することが、乱歩研究家から指摘さ
 れていることも紹介されている。
 
 なるほどね、そうなんだ、と20数年前に刊行された本を読んで感心するおれは、のんびり
 しているというか、鈍いというか。

 

 信州へ−1
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